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2016年11月2日水曜日

小説:アイザック・アシモフ『鋼鉄都市』

〜ストーリー〜
人口の増加と環境破壊により、
全ての人類は階級により生活を制限される管理社会の中で、
宇宙開拓に発った人類の子孫であり優れた科学技術を持つ「宇宙人」や、
人の手から労働を奪ったロボットに対する鬱憤を募らせながら生きていた。
そんな中、ロボット工学の権威である宇宙人が何者かに殺害され、
地球人に容疑者がいるのではないかという嫌疑が掛けられる。
刑事であるベイリは、
見た目にはほとんど宇宙人と変わらないロボット・ダニールとコンビを組み捜査に当たるのだが…。

古典SF小説の代表者アイザック・アシモフの代表作のひとつ。
人類と宇宙人の一触即発の事態を引き起こしかねない殺人事件を担当する刑事と、
彼とコンビを組むほとんど人間にしか見えないロボットの活躍を描く。
人類と宇宙人の関係、
ロボットを毛嫌いする懐古主義者の暗躍、
あるいは、ロボット三原則に対する挑戦など、
スリリングな展開が続く一方、
主人公ベイリの的外れな推理やそれによる内省はどこか可笑しさも感じさせる。
本編に直接関係ないような描写も数多くあり、
若干の中だるみを感じなくもないが、
全体的にはサクサク読み進めることができる。
また、最後にダニールが起こす言動がとても印象的で、
アイザック・アシモフの他の作品を知っていると色々考えさせられる。

2016年9月22日木曜日

小説:フィリップ・K・ディック『トータル・リコール』

〜ストーリー〜

『トータル・リコール』
妻から呆れられるほど火星に憧れを持つクウェールは、
脳内に偽の記憶を移植し一生の思い出を植え付けるというサービスを提供するリカル株式会社を訪れる。
自分が国家組織の一員で火星に秘密の任務に就いていたという記憶を植え付けようとしたクウェールだったが、
彼の脳内にはとある秘密が隠されていた…。

『マイノリティ・リポート』
未来予知能力を持つミュータント・プリコグの力で犯罪を予見し防止する犯罪予防局の長官アンダートン。
引退が間近に迫ったある日、
自分が見知らぬ男を殺害するとの予知がなされたアンダートンは、
未来の無実を証明するため、
公認候補であるウィットワーらの追跡を退けながら、
プリコグの真実に迫ろうと奔走する。


 サイバーパンクの開祖、フィリップ・K・ディックによる作品を集めた2012年に発行の電子書籍。
シュワちゃん主演で実写化された表題作『トータル・リコール』や、
同じくトム・クルーズ主演で映像化された『マイノリティ・リポート』の原作を含む、10編の短編集。
映画の『トータル・リコール』は変態監督ポール・バーホーベンの悪趣味全開のSFアクションに仕上がっていたが、
原作はとある男の記憶を巡るサスペンスのテイストが強い(間違っても目ん玉ビヨーンなんてシーンはない)。
いずれの作品も社会や世界、宇宙、あるいは、
テクノロジーが進んだ世界における人間の在り方を追究・描写しながら、
エンターテイメント性にも富み、
さらにあっと驚く結末が用意されている(多分そういう作品ばかり集めたのだと思うが…)。
1950〜70年代に発表された作品が収録されているが、
古臭さもまったく感じられない。
短編集ということもあってサクッと読めるため、
SF映画ファンならぜひ購読をオススメしたい。

2016年9月15日木曜日

小説:折原一『101号室の女』

〜ストーリー〜
母と息子のふたりで経営する古びたラブホテルにひとりの女性客が来た。
母と女性客はお互いに不信感を抱き、
母は息子に女性客を追い出せと諭すが…。
表題作『101号室の女』を含む9編の短編集。

ミステリー作家・折原一が、
1990年代初頭に発表した短編ミステリー9編を収めた短編集。
多くが夫婦や親子を取り巻く事件をテーマとしており、
いずれの作品も著者お得意の叙述トリックとどんでん返しを堪能することができる。
表題作『101号室の女』は、
映画『サイコ』を題材としているが、
映画の内容を知っている人ほど意外な展開を楽しむことができるだろう。
短編なのでストーリーがスッキリまとまっており、
短い時間でミステリーの醍醐味を堪能できる点も良い。
何しろ著者の長編ときたら、
各章ごとにこちらを撹乱するかのようなクライマックスを用意し、
それらを終章できっちりと一纏めにしてしまうという、
よくもこんなオチを付けられるものだと感心してしまう一方で、
ストーリーの整理にものすごく頭を使う作品が多い。
その点では著者の作品の入門編として、
本作にハマれば長編にトライしてみるのはアリだと思う。

2016年9月13日火曜日

小説:小林泰三『セピア色の凄惨』

〜ストーリー〜
とある探偵事務所にひとりの女がやって来た。
わずか4枚の写真とそれにまつわる思い出だけを手掛かりに、
親友であるレイという女の行方を探して欲しいという。
依頼を受けた探偵は写真に写った人々への聞き込みを開始するが、
彼らが語るのはレイという女には関係のない奇想天外な話ばかりであった。

探偵と依頼人である女、そして、
依頼に関わる4人の人物が語るストーリーをまとめた小林泰三の短編集。
初恋の女に異常なこだわりを持つ男、
極度にめんどくさがりな女、
心配性が過ぎる女、
だんじりの先導役として死ぬことに強い憧れを持つ男など、
何かしらの極端なくせを持つ人物の、
屁理屈とグロテスクに満ちたストーリーが展開される。
良い意味での読後の不愉快さも相変わらずで、
小林泰三節を堪能することができる。
最後の逸話で一応レイの正体が明らかとなるが、
こちらは多少強引なオチの付け方でおまけ程度に捉えておけば良い。

2016年9月12日月曜日

小説:小林泰三『幸せスイッチ』

〜ストーリー〜

『怨霊』
メリーと名乗るストーカーに狙われた女は警察に通報するが、
そこにΣという探偵が現れ事態は思わぬ方向に進んでいく。

『勝ち組人生』
亡くなった叔母の財産を相続した女は、
幸福の尺度であるお金を増やし幸せを貯蓄することに喜びを覚えるが…。

『どっちが大事』
妻からの妻とスマホのどちらが大事かという質問に妻と答えた夫はスマホを破壊されてしまう。
それから妻の二択と要求はエスカレートしていき…。

『診断』
救急救命士の男がとある母子家庭の家を訪れた。
母親の屁理屈のせいで病院に連れて行くことが出来ぬままこどもの体調は見る見る悪化し…。

『幸せスイッチ』
両親を飛行機事故で亡くし財産を引き継いだ女は、とある男の出会いから人生の坂道を転がり落ちて行くことになる。
そんな時に幸せスイッチとそれを販売するNPOと出会い彼女の人生が変わっていくのだった。

『哲学的ゾンビもしくはある青年の物語』
突然自分を無視して同じ話を繰り返し始めた恋人。
友人が同じ症状に陥ったのを見た「僕」は、
3人で集まり再現実験を試みるのだが…。

小林泰三の短編集。
登場人物の屁理屈の応酬が得意技の著者の作品にあって、
本作は読んでいて腹立たしさを覚えるほどの「屁理屈祭」が全ストーリーにおいて展開される。
いずれも意外な展開に広がっていきあっと驚くオチがあるので読み応えはあるが読後にドッと疲れる。
一見短編同士に何ら関係性がないように見えるが、
最後の作品を除きなぜか竹内春子という人物が登場し、
最後の作品で一応のクロスを見せる。
また、初めの作品のΣは著者の他の短編にも登場する探偵で、
時空を超えた殺人事件など不思議な事件ばかり担当する変わった探偵。

2016年5月30日月曜日

小説:深木章子『衣更月家の一族』

〜ストーリー〜
別居中の夫からストーカー被害を受ける妹を匿う姉。
とある秘密を抱えかつての恋人と結婚を余儀なくされた女。
父の事業の失敗により暴力団の裏稼業に引き込まれた男。
一見何ら関係がない彼らの周りで起きた殺人事件が、
元刑事の私立探偵・榊原の手により繋がっていく。

『鬼畜の家』の深木章子の2作品目にして、
私立探偵・榊原シリーズの第2弾。
絡まった謎の糸が終盤でしゅるしゅると解けていく快感を本作でも味わうことができる。
ただ、『鬼畜の家』ほど伏線がしっかり張られている訳ではないので、
推理する楽しみはやや減った印象。
それでも十分に読後の満足は得られるが。

ドロドロとした家族像の描写も相変わらず秀逸。
元弁護士である著者だが、
やはり色々な家族を見てきたのだろうか…。

2016年5月29日日曜日

小説:深木章子『螺旋の底』

〜ストーリー〜
セラピストである女は患者であった男と結婚し、
パリから田舎町ラボリに移住する。
男は地元の大地主ゴラーズ家の跡継ぎであったが、
彼の住む屋敷の地下には一見のどかに見える町でかつて繰り広げられた凄惨な歴史が封印されていた。
そして、その地下の秘密を解き明かすことこそ女が男と結婚した真の理由であった。

深木章子の3作目。
私立探偵・榊原を主人公とした前2作から打って変わり、
1960年代のフランスの田舎町を舞台としたサスペンスとなっている。
男と女、それぞれの一人称語りで場面が切り替わり、
その中で感じられる違和感が終盤への伏線になっているという叙述トリックの体裁が取られているのも前2作と異なるポイント。
相変わらず物語の構成が見事で、
読後にもう一度読み返したくなること請け合い。

2016年5月24日火曜日

小説:深木章子『鬼畜の家』

〜ストーリー〜
自動車事故により行方不明となった北川郁江と息子・秀一郎。
児童養護施設の友人から、
ひとり取り残された娘・由起名の独立のために、
保険金の支払いを拒否する保険会社との交渉材料を集めて欲しいと依頼を受けた私立探偵・榊原は、
北川家に関係するものへの調査を開始する。
やがて、調査の中で、
北川家の壮絶な家庭環境と、
郁江の周囲で不審な事故や自殺が相次いでいたことが明らかになる。

本作で第3回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞を受賞した深木章子のデビュー作。
作者自体が東大卒業後、60歳まで弁護士を勤め上げそこからミステリー作家になったという、
小説の登場人物のような人物だそう。

タイトル通り鬼畜の家と呼ぶべき郁江とそのこどもらの壮絶な家庭環境が、
関係者への調査を通じて炙り出されていく課程が主として描かれる。
しかし、その中の一件本筋とは関係なさそうな複数のエピソードが実は伏線となっており、
終盤で隠された真実が明らかになる。
どんでん返しに次ぐどんでん返しはミステリー好きには涎垂もの。
鬼気迫る感じは少ないものの、
保険金も話に絡むことから『黒い家』が好きな方も楽しめるのでは。

本作の主人公・榊原の登場するシリーズは他に2作あり、
受賞もされるなど評価は高い模様。
続けて購読の予定。

2015年10月31日土曜日

小説:荻原浩『砂の王国』

〜ストーリー〜
エリート証券マンからホームレスに転落した山崎は、
占い師の龍斎と容姿端麗なホームレス仲村と出会い、
人生を逆転させる妙案を思い付く。
それは、宗教団体を作ることであった。
3人が立ち上げた「大地の会」は順調に規模を拡大し金を生み出していくが、
会員が増えていくのに従って徐々に綻びが生じ始める…。

『オロロ畑で捕まえて』『明日の記憶』『噂』など、
幅広いジャンルで才能を発揮する小説家・荻原浩による長編小説。
ストーリーはホームレス期・創立期・転換期の主に3部構成により成り立っており、
山崎の過去や心理を深く描写する事で、
人生の逆転の道を進みながらも苦悩にもがく人間の姿と、
彼を取り巻く心に何かを抱えた人々の人間模様を描くヒューマンドラマが展開される。
他方で、様々な思惑の元、
肥大化する組織がその性質を変容させていき、
ややもすれば暴走し危険性を孕んでいく様子も描かれる。
宗教団体の暴走というと日本人にとってはアレルギーすら引き起こしかねないテーマであり、
本作においては主題には添えられていないが、
不吉なものを予感させる少し怖い作品ともなっている。
相変わらず著者の文章は読みやすく、
文庫本にして上下2巻の大作であるが時間を忘れて読書に没頭できる。

2015年9月2日水曜日

小説:フランク・ティリエ『GATACA』

〜ストーリー〜
双子の娘を誘拐されひとりの命を奪われ、
失意に陥ったリューシーは警察を辞職し、
残された娘と母と共に静かに暮らしていた。
ある日、リューシーはかつての同僚から、
犯人が不可解な方法で自殺したことを聞き、事件の真相を独自に追い始める。
一方、リューシーと同じく心に傷を負い、
殺人課に異動したシャルコは、
とある研究施設でチンパンジーによるものと思われる殺人事件の捜査にあたっていた。
やがて、2つの事件は交差し始め、
恐るべき犯人の正体と、人間の遺伝子に潜む秘密が明らかとなる…。

2015年8月23日に紹介の『http://kakidame-kakidame.blogspot.com/2015/08/e.html』のその後と新たな事件を描いた続編。
本作においても著者お得意の猟奇殺人事件と、
生物の進化や遺伝子という壮大なテーマをベースとし、
無関係に思われる事象が収束したうえに事件の意外な真相と犯人が明らかになるという、
優れたサスペンスを読んだ時に覚える快感を味わう事ができる。
また、本筋とは無関係ながら残された謎があり、
その真相は日本未訳の『ATOM[KA]』という続編に委ねられている模様。

2015年8月23日日曜日

小説:フランク・ティリエ『シンドロームE』

〜ストーリー〜
元恋人が失明に至った謎の短編映画を収めたフィルムを追うリューシー。
脳と目を摘出され殺害された5人の遺体の身元を追うシャルコ。
2人の刑事が追う2つの事件は、
シンドロームEという言葉をキーに交差し始める…。

フランスの作家フランク・ティリエの作品で、
2011年にハヤカワ文庫より出版されたスリラー。
それ以前に出版されている『死者の部屋』の主人公リューシーと、
『タルタロスの審問官』『七匹の蛾が鳴く』の主人公シャルコがW主人公として登場している。
いずれの作品も心に傷を負っている主人公が猟奇殺人を追うストーリーで、
人間の心の闇がテーマとなっている。
非常に暗い話が多いが意外な犯人などサスペンス作品としても読み応えのある作品ばかり。
本作はこれまでの著者の作品と比べると国や時代をも超える壮大なストーリーが展開されているが、
根底にあるテーマは変わらず、
先の読めない展開に思わずページをめくる手が止まらなくなる。
上に挙げた3作品を先に読むことをお勧めするが、
繋がりはほとんどないので独立した作品として読むことが可能。
また『GATACA』という続編があるが、
本作を最後まで読むとこちらも読まざるを得なくなる憎い構成をしている。

2015年8月19日水曜日

小説:小野不由美『残穢』

〜ストーリー〜
ライターであるわたしは、
とあるマンションについての取材とルポの執筆を始めた。
そのマンションでは次々と怪奇現象が起こり、人がなかなか居着かない。
さらに、怪奇現象はマンションだけでなく隣接の団地にも発生していた。
わたしが取材を進めていく内に、
その土地にまつわる歴史と穢れの連鎖が明らかとなっていく。

『屍鬼』の小野不由美によるルポ風ホラー小説。
著者お得意のドロドロホラーが展開されるかと思いきや、
一応ルポの形式を取っているので、
文章が客観的で臨場感が感じられなかった。
また、次から次へと登場人物が現れるので、
ストーリーを把握するだけで精一杯になる。
根底にあるテーマは大変著者らしいと思うのだが、
他の小説と同じような恐怖感などを求めると少し肩透かしを食らうかも。
竹内結子・橋本愛主演で映画化が決まっているが、
案外映像の方がリアリティーを感じられて面白いかも。

2015年6月15日月曜日

小説:長岡弘樹『線の波紋』

〜ストーリー〜
娘を誘拐された女ー。
彼女は「娘が遺体で見つかった」というイタズラ電話に悩まされていた。
会社の不正経理を隠そうと画策する男ー。
その事実に気付いていた経理部の同僚がある日遺体となって見つかる。
だが、その顔は微笑みを堪えていたという。
幼女誘拐と「微笑殺人」、2つの事件を追う女刑事ー。
2つの事件は捜査線上で一つに収束していく。

『傍聞き』が話題となった著者の長編サスペンス。
前述の3人をそれぞれ主人公としたパート、事件の再現パート、エピローグの5部構成となっており、
事件の全体像や真相そのものは再現パートとエピローグで明らかになるが、
本書が特徴的なのは事件に関係するサイドストーリーに各章でオチがつくというところ。
『傍聞き』でもそうだったが、
犯罪を題材に使いながらも、
重くなく、血生臭くなく、救いようのあるオチをつけるというのが著者の作品の特徴のようだ。
本作では、特に、エピローグにて最後の謎が明かされた時、
心にすっと爽やかな風が吹くような感覚を味わう事ができる。
もちろん、どんでん返しがあり事件の真相もなかなかのものなので、
ミステリーファンでもそうでない人でにもオススメできる。

2015年6月12日金曜日

小説:友井羊『僕はお父さんを訴えます』

〜ストーリー〜
愛犬リクを何者かの虐待により失ってしまった光一は、
同級生である沙紗の手を借り独自に調査を進めていく内に、
犯人が父である事を確信する。
司法浪人生である敦の助けで父に対し裁判を起こした光一。
しかし、裁判所で驚愕の真実が明かされるー。

著者のデビュー作であり、2012年の「このミステリーがすごい」大賞受賞作。
青春ミステリーの体裁をとった裁判の入門書のような感じ。
キャラクター造詣もマンガ並に分かりやすい。
ミステリーとしては伏線も分かりやすくわがままを言えばもう一捻り欲しかったが、
事件の真相が明らかになる終盤はそれなりのインパクトはある。
テレビの特別2時間ドラマあたりにすごく向きそうな気がする。

2015年6月9日火曜日

小説:五十嵐貴久『リカー完全版ー』

〜ストーリー〜
友人が出会い系サイトで次々と女性と出会い遊んでいる事を聞いた主人公は、
妻子を持つ身でありながら自らも出会い系サイトに手を出し始め、
やがてリカという女とやり取りをするようになる。
初めは会話を楽しんでいた主人公だがリカの異様性に気付き距離を置き始めた。
しかし、リカの想いは留まる事なく膨れ上がり、
やがて主人公のみならずその周囲の人間にまで危害を及ぼし始める。

『交渉人』シリーズや『パパとムスメ』シリーズ、『Fake』などで知られる五十嵐貴久が、
ホラーサスペンス大賞を受賞し華々しいデビューを飾った作品。
知る人ぞ知るホラー漫画『座敷女』にハマった人なら間違いなくハマる。

顔立ちは整っているはずなのに、
ゾンビを彷彿とさせるかのような黄土色の肌と底知れぬ闇を讃える異様な目付き。
口からはマスクをしても防げないほど異様な臭いが放たれる。
普通の成人男性では歯が立たない身体能力を持つ一方で、
元看護師で医学の知識を有するほど優れた頭脳を持つ。
こんな女に付き纏われたら人生一環の終わりに決まっている。

一見荒唐無稽な設定でありながら、
主人公の恐怖を追体験しているかのように感じられるのは、
筆者の緻密な文章の積み重ねがあってこそ。
これは完全版という事で、大幅な加筆修正が加えられているそうなのだが、
完全版で追加されたエピローグには度肝を抜かれる。
これでもかと見せつけられたリカという女の闇の深さを、
もはや引き返す事のできない暗黒に引き摺り下ろすかのような強烈なエピローグ。
普通小説でも映画でもゲームでもリメイクの追加要素って「必要だった?」と思わされる事の方が多いが、
本作に関してはまさに完全版という言葉を冠するにふさわしいものになっている。

2015年4月14日火曜日

小説:小林泰三『玩具修理者』

〜ストーリー〜

『玩具修理者』
どんな壊れた玩具でも治してしまう男がいた。
弟を死なせてしまった「彼女」は、
その亡骸を抱えて玩具修理者の元に向かった…。
「彼女」が「わたし」に語る奇想天外な話は思いもよらぬ結末を迎える。

『酔歩する男』
ある日、血沼は居酒屋で小田という男と出会う。
血沼にはまったく覚えがなかったが、
小田は彼の事をよく知っていると言う。
やがて、小田の口からふたりとひとりの女の因縁が語られる…。


ホラー・SF・叙述トリックの鬼才・小林泰三のデビュー作かつ日本ホラー小説大賞短編賞を受賞した表題作と、
1編の長編を含む作品集。
著者お得意のグロ描写の緻密さは既にその片鱗を見せかけているが、
その後の作品と比べればそれほどキツいものではない。
最後のどんでん返しの衝撃は相当なもので、
叙述トリックとして読んでみても十分及第点に達している。
『酔歩する男』は時間と記憶をテーマとしたSF作品でありやや難解。

2014年6月3日火曜日

小説:深町秋生『果てしなき渇き』

~ストーリー~
元刑事の藤岡は、
離婚した元妻から失踪した娘・加奈子の捜索を依頼される。
時を同じくして発生したコンビニでの殺人事件と、
加奈子に恋心を抱く同級生が残した手記。
3つの事象がひとつに重なりあった時、
加奈子が隠し持っていた裏の顔が明らかになり、
やがて暴力団や中国系マフィアをも巻き込む凄惨な事件の幕が開く…。

深町秋生が「このミス」を受賞したハードボイルド小説。
役所広司主演で今夏映画化。
ひたすら救いようのない話であり、
どの登場人物とてまともな人間が一人もいない。
扱われるテーマも、暴力・殺人・麻薬・いじめ・少年少女の売春など、とにかく重苦しい。
だが、徐々に白日の下に晒されていく驚愕の真実の連鎖や、
一見関係がなさそうな同級生の手記と一連の事件の関係性が明らかにされていくにつれて、
読者をぐいぐいとその世界観に引き込むパワーを持った小説でもある。
思わず読むことを躊躇ってしまいそうなほどグロいシーンも満載のため、万人にお勧めはしない。
だが、決して面白くない小説であるという事はなく、
むしろ体調を万全にして本書を手に取ることをお勧めします。

2014年5月23日金曜日

小説:小林泰三『百舌鳥魔先生のアトリエ』

~ストーリー~

『ショグゴス』
突如南極に現れた謎の不定形生物群。
大統領と科学者はロボットを使いそれを排除しようとするが…。

『首なし』
とある令嬢と頭の半分を失いながら生きた元使用人である夫。
とある疑念を抱いた息子は両親の馴れ初めを聞く。

『兆』
教師に殴られた女生徒・直美が学校を抜け出しとあるマンションから飛び降り、自殺した。
事件に疑惑を持ったフリーライター・なえ子は取材を開始する。
その頃、直美の同級生である欒花の前に直美の幻影が現れ、
人間を超越した「兆」という存在への昇華へいざなおうとしていた。

『朱雀の池』
戦時下のアメリカ。
軍から日本の文化財リストを作成するように言われたウォーナー博士は、
何故か自分が日本の京都に住む蘭蔵という男であるという夢を見る。

『密やかな趣味』
性的欲求を満たすためのアンドロイドを購入した「わたし」は、
届いたアンドロイドに様々な要求を押し付ける。
だが、それは徐々にエスカレートしていき…。

『試作品三号』
強大な力を持った妖怪達を兵器とするための研究施設が破壊された。
妖怪の中でも最強の力を持つという妖怪・試作品三号は、調査のためにやって来た鎧の男と対峙する。

『百舌鳥魔先生のアトリエ』
妻が習い事として始めた「芸術」は、
生物の身体を極限まで切り刻んだまま生体機能を維持させるという悪魔の所業だった。
ある日、失踪した妻を追って「わたし」はその「芸術」の講師である百舌鳥魔という男のアトリエに向かう。


奇抜な設定・グロ描写・ブラックユーモアと屁理屈を武器に、
主にホラー・SF・サスペンスの分野で活躍する作家・小林泰三の、
過去の作品を収録した短編集。
「クトゥルフ神話」をベースにしながらそれを逆手に取ってまさかのオチに持っていくSF作品『ショグゴス』、
読んでいるだけでこちらの身体か痛くなるかのような錯覚に陥るほどグロ描写満載の『密やかな趣味』『百舌鳥魔先生のアトリエ』、
現実と虚構を織り交ぜ読者を混乱させる『首なし』『朱雀の池』『兆』、
最強の妖怪とそれをも上回る力を持った鎧の男との戦いを描いた『試作品三号』など、
7作品とも著者のテイストがよく表れている。

2014年5月17日土曜日

小説:若竹七海『暗い越流』

~ストーリー~

『蝿男』
探偵の葉山は、
今は誰も住んでいない屋敷に母の遺骨を取りに行って欲しいという依頼を受け現場に赴くが、
そこで何者かの襲撃を受ける。

『暗い潮流』
5人を殺害、23人を負傷させた死刑囚・磯崎の元に山本優子という女性からファンレターが届く。
山本の正体を探るよう依頼を受けた雑誌編集者は調査を続ける内に、
山本優子が実在しかつて磯崎と近所付き合いをしていた事を知る。

『幸せな家』
失踪した女性雑誌編集者の捜索を依頼されたライターは、
彼女が周囲の人間を脅迫し金銭を得ていたのではないかという疑いを持つ。
だが、事態は思わぬ方向に進んでいく。

『狂酔』
とある教会で立て篭り事件が発生した。
犯人である男はその教会と自分の生い立ちとの関係について話し始める。

『道楽者の金庫』
探偵を休業し古本屋でアルバイトをしていた葉山は、
ひょんな事からとある資産家の金庫の番号が隠されていると思われるこけしを探すよう依頼を受ける。
資産家の別荘に赴いた彼女は、
またしても何者かの襲撃を受ける。


表題作『暗い潮流』で日本推理作家協会賞短編部門を受賞した若竹七海の短編ミステリー集。
どの作品も「家」と「歪んだ家族・人間関係」がキーとなっている。
ほとんどの作品が依頼を受け調査をするという探偵ものの形式を取っている中、
一番のお勧めは唯一その形式を取らず犯人の独白でストーリーが展開される『狂酔』。
教会に隠された欺瞞に振り回された主人公とその周囲を取り巻く人物の惨めながらひたむきな生活は美しく感動的ですらあるのだが、
作者が最後の最後に設置した仕掛けに世界が反転し度肝を抜かれる。
その他の作品もミステリーとして及第点以上のクオリティ。
文体も読みやすいもので短編なのでサクッと読むことができる。

2014年5月15日木曜日

小説:湊かなえ『白ゆき姫殺人事件』

化粧品会社の女性社員・三木が殺害された。
その疑いの目は事件直後から行方をくらました彼女の同僚である城野に向けられる。
フリーライターの赤堀は、
ふたりの後輩である狩野から事件の話を聞き取材を開始する。
彼女を犯人と確信する者、
彼女を擁護する者、
彼女の家族・親友・同僚、
彼女を取り巻く人々の話が城野という女性の人物像をあぶり出し、
それはやがて雑誌やSNSを通じて形を変えながら拡散していく。

『告白』『北のカナリアたち』など、
立て続けに映画化されたヒット作を世に放っている湊かなえの小説。
本作も井上真央・綾野剛・菜々緒らをキャストに迎え映画化された。
『告白』が主人公の独白によって成立していたストーリーであるのに対し、
本作は城野を取り巻く人物が話す会話や雑誌・SNSにより事件の真相が明らかになっていくという構成が取られている。
ジャンルとしては叙述トリックにより読者のミスリードを導くサスペンスということになろうが、
事件の真相に関して言えばサスペンス的な驚きは少なめである。
むしろ、人間がいかに自分に都合が良いように記憶を捻じ曲げ話をするかといった点と、
それらが情報化社会において様々な形で拡散していく可能性があるという恐怖を描くことに主眼が置かれているように感じた。
しかしながら、テーマとしては決して目新しいものではない。
また、物語の構成上仕方がない部分ではあるが、
各登場人物の会話が説明的かつ冗長になりがちであり、
読み進めるにあたり焦ったさを感じさせる点もある。
どの登場人物も一癖も二癖もある人間ばかりで、
事件の真相が明らかになっても誰も得をしないというところも、
人によっては読後の満足感を削ぐ原因たり得るだろう(個人的には嫌いではない)。