2014年5月5日月曜日

小説:安生正『生存者ゼロ』

北海道沖の採掘プラントの従業員が、
一夜にして凄惨極まる姿に成り変わり発見された。
その遺体からは未知の最近が採取され、
新型の感染症が疑われたが被害は広がることなく、
原因不明のまま事件は収束するかと思われた。
だが、1ヶ月後、北海道のとある街の住民6万人が、
やはり一夜にして同じ症状で全滅するという事態が発生。
両方の現場に居合わせた自衛官・廻田は原因と被害拡大の防止策を探るように命じられる。

安生正の第11回このミス受賞作品。
たった一夜にして多くの人間を死に至らしめる謎の感染症とその意外な原因、
その対応に追われ醜態を晒す日本政府と諸外国との緊張など、
プロットとしては面白い部分が多々ある。
しかし、何もかもを詰め過ぎた結果、
不必要だったのではないかという要素や説明不足のまま読者を置いていく部分も多々ある。
例えば、
主役のひとりである覚醒剤中毒の元細菌研究者は、
事件の原因究明のキーパーソンになるのか(羊たちの沈黙のレクターみたいな)と思えば、
ストーリーをかき回すだけで不快感しか感じられない。
あるたは、全く異なる時間と環境にあるはずの人物が共通して聞いた「神の啓示のようなもの」については何の説明もない。
一時は実は本作はカルトホラーなのかと思ってしまうほどこのプロットは不要だ。
そうかと思えば、政府のグダグダな対応、政治家のダメさという部分については執拗なほど細かく描写があり、
著者は国に身内を殺されたことでもあるのかと首を傾げたくなる。
このようなチグハグさが全体的に感じられ、
せっかくの良いプロットが台無しになってしまっていると思う。
ただ、見せ場を視覚的にイメージすると映画に向いているような箇所が散見されるため、
上述したような余分な要素を削り取れば、
なかなかのエンターテイメント作品になりそうな気はする。

0 件のコメント:

コメントを投稿