2016年11月2日水曜日

小説:アイザック・アシモフ『鋼鉄都市』

〜ストーリー〜
人口の増加と環境破壊により、
全ての人類は階級により生活を制限される管理社会の中で、
宇宙開拓に発った人類の子孫であり優れた科学技術を持つ「宇宙人」や、
人の手から労働を奪ったロボットに対する鬱憤を募らせながら生きていた。
そんな中、ロボット工学の権威である宇宙人が何者かに殺害され、
地球人に容疑者がいるのではないかという嫌疑が掛けられる。
刑事であるベイリは、
見た目にはほとんど宇宙人と変わらないロボット・ダニールとコンビを組み捜査に当たるのだが…。

古典SF小説の代表者アイザック・アシモフの代表作のひとつ。
人類と宇宙人の一触即発の事態を引き起こしかねない殺人事件を担当する刑事と、
彼とコンビを組むほとんど人間にしか見えないロボットの活躍を描く。
人類と宇宙人の関係、
ロボットを毛嫌いする懐古主義者の暗躍、
あるいは、ロボット三原則に対する挑戦など、
スリリングな展開が続く一方、
主人公ベイリの的外れな推理やそれによる内省はどこか可笑しさも感じさせる。
本編に直接関係ないような描写も数多くあり、
若干の中だるみを感じなくもないが、
全体的にはサクサク読み進めることができる。
また、最後にダニールが起こす言動がとても印象的で、
アイザック・アシモフの他の作品を知っていると色々考えさせられる。

2016年10月12日水曜日

映画:『ジェイソン・ボーン』

〜ストーリー〜
CIAの監視の目をかいくぐり、
アテネに潜伏していたジェイソン・ボーンの元に、
かつての同僚ニッキーが現れる。
彼女はCIAのデータベースをハッキングし、
かつてボーンが白日の下に晒したトレッドストーン計画に関するさらなる真実と、
新たな計画アイアンハンドの情報を入手し、
それを阻止するようボーンに依頼する。
ニッキーの動きを突き止めた女性分析官リーは、
ふたりを確保するチームの指揮を執ることを志願するが、
長官デューイは並行してボーンに私怨を持つ凄腕の作戦員アセットを召還し、ボーンの暗殺を目論む。

「ボーンシリーズ」としては『ボーン・レガシー』以来4年ぶり、
また、ジェイソン・ボーンを主人公とした作品としては9年ぶりのシリーズ最新作。
主演はもちろんマット・デイモンが務め、
ニッキー役のジュリア・スタイルズも続投。
また、新たに、
トミー・リー・ジョーンズとヴァンサン・カッセル、
そして、『アンナ・カレリーナ』などの新鋭アリシア・ヴィキャンデルらが主要キャストに名を連ねる。

スピンオフでついたケチを払拭すべく、
主人公の名前を映画のタイトルとし、
観客や興行収入などあらゆる面の期待に応えようとする気概で制作されたは認めるが、
全体的な出来としては残念ながら旧3部作に及ばなかったと言わざるを得ない。

ボーンシリーズと言えば、
手持ちカメラによる臨場感に溢れた鍛え上げられた肉弾戦による格闘や、
その場にある道具を使って危機を切り抜けるというジャッキー・チェンが得意としそうな頭脳プレーが魅力のひとつ。
しかし、本作のアクションは、
まず半分以上がバイクか車によるチェイスに費やされている。
こりゃマイケル・ベイかワイルドスピードか?
そして、格闘のほとんどはヴァンサン・カッセル扮するアセットが担当しており、
しかもこれが誰であろうとどんな場所でも銃でスパスパ処理していくため、
まったく暗殺の要素がなくむしろ観ている側が後処理が心配になってしまうほどやることが荒い。
ヴァンサン・カッセルの見せ場を作るためでもあると思うが、
いくらなんでもやり過ぎである。

ストーリー面においても、
○トレッドストーンに関する新たな真実が後付け臭い。
○アイアンハンド計画も既に他の映画でさんざん使い古されたアイディアである。
○セキュリティゆるゆるガバガバのCIA。
など、粗が目立つ。

アクション映画単体として観た場合には及第点ではあるが、
ジェイソン・ボーンというキャラクターか、
マット・デイモンによほどの思い入れがなければ、
シリーズのファンには厳しい作品かも知れない。

2016年9月22日木曜日

小説:フィリップ・K・ディック『トータル・リコール』

〜ストーリー〜

『トータル・リコール』
妻から呆れられるほど火星に憧れを持つクウェールは、
脳内に偽の記憶を移植し一生の思い出を植え付けるというサービスを提供するリカル株式会社を訪れる。
自分が国家組織の一員で火星に秘密の任務に就いていたという記憶を植え付けようとしたクウェールだったが、
彼の脳内にはとある秘密が隠されていた…。

『マイノリティ・リポート』
未来予知能力を持つミュータント・プリコグの力で犯罪を予見し防止する犯罪予防局の長官アンダートン。
引退が間近に迫ったある日、
自分が見知らぬ男を殺害するとの予知がなされたアンダートンは、
未来の無実を証明するため、
公認候補であるウィットワーらの追跡を退けながら、
プリコグの真実に迫ろうと奔走する。


 サイバーパンクの開祖、フィリップ・K・ディックによる作品を集めた2012年に発行の電子書籍。
シュワちゃん主演で実写化された表題作『トータル・リコール』や、
同じくトム・クルーズ主演で映像化された『マイノリティ・リポート』の原作を含む、10編の短編集。
映画の『トータル・リコール』は変態監督ポール・バーホーベンの悪趣味全開のSFアクションに仕上がっていたが、
原作はとある男の記憶を巡るサスペンスのテイストが強い(間違っても目ん玉ビヨーンなんてシーンはない)。
いずれの作品も社会や世界、宇宙、あるいは、
テクノロジーが進んだ世界における人間の在り方を追究・描写しながら、
エンターテイメント性にも富み、
さらにあっと驚く結末が用意されている(多分そういう作品ばかり集めたのだと思うが…)。
1950〜70年代に発表された作品が収録されているが、
古臭さもまったく感じられない。
短編集ということもあってサクッと読めるため、
SF映画ファンならぜひ購読をオススメしたい。

2016年9月18日日曜日

映画:『スーサイド・スクワッド』

〜ストーリー〜
スーパーマンの死後、
メタヒューマンやスーパーヴィランに対抗する力を得るべく、
政府の高官アマンダ・ウォラーは、
スーパーヴィランによる特殊部隊タスク・フォースXの結成を提言する。
そのメンバー候補に選ばれたのは、
悪名高き犯罪者ジョーカーの恋人であるハーレイクイーンや、
百発百中の狙撃手デッドショットなど、
一癖も二癖もある悪人ばかりであった。
また、その中には、
アマンダがコントロール下に置いている魔女エンチャントレスの名も挙がっていたが、
彼女が憑依しているムーン博士とリック・フラッグ大佐との関係を巧みに利用し逃亡に成功。
復活した弟と共に人類を滅ぼすべく動き出す。
彼女らを目論見を阻止すべく、
タスク・フォースXがいよいよ派遣される。

DCコミックスの人気シリーズ『スーサイド・スクワッド』の実写映画作品。
『マン・オブ・スティール』を皮切りに今後公開が予定されているジャスティス・リーグシリーズのスピンオフ作品ながら、
前作『バットマンvsスーパーマン/ジャスティスの誕生』とこれからのシリーズ作品との橋渡し役を兼ねている。
様々な能力を持ったヴィランによるアクションが売りのひとつのはずなのだが、
味方で明らかに現実離れした力を持っているのがディアブロしかおらず、
しかも彼はとある理由で途中まで戦いに参加しないため、
しばらくはコスプレをした人たちによる他の映画とそれほど大差のないドンパチアクションが繰り広げられる。
また、ストーリーについても、
ハーレイクイーンを除くと家族や恋人との関係に難を持つ実に湿っぽいキャラが多く、
意外とテンションは低め。
各キャラクターの背景を丁寧に描いてストーリーに深みを与えよう、
というのは分からないではないが、
登場人物が多い分結局浅いエピソードになってしまっている。
これならいっそタランティーノかロバート・ロドリゲスにでも監督をやらせて、
個性のキツすぎる悪役が自分の命を守るために、
仕方なしに手を取り合って敵と戦うハイテンションな映画にしておいた方がよほど良かったのではないかと思う。
単品の映画でキャラクター紹介を終えているアベンジャーズと違って、
少々原作のことを知っていないと厳しい点もある。
ヒーロー側からはフラッシュとバットマンが登場。
また、エンドロール後には、
『ジャスティス・リーグ』に続く重要なエピソードを描いたおまけシーンと、
なぜだか妙にダサい『ワンダーウーマン』の予告編が流れる。

2016年9月15日木曜日

小説:折原一『101号室の女』

〜ストーリー〜
母と息子のふたりで経営する古びたラブホテルにひとりの女性客が来た。
母と女性客はお互いに不信感を抱き、
母は息子に女性客を追い出せと諭すが…。
表題作『101号室の女』を含む9編の短編集。

ミステリー作家・折原一が、
1990年代初頭に発表した短編ミステリー9編を収めた短編集。
多くが夫婦や親子を取り巻く事件をテーマとしており、
いずれの作品も著者お得意の叙述トリックとどんでん返しを堪能することができる。
表題作『101号室の女』は、
映画『サイコ』を題材としているが、
映画の内容を知っている人ほど意外な展開を楽しむことができるだろう。
短編なのでストーリーがスッキリまとまっており、
短い時間でミステリーの醍醐味を堪能できる点も良い。
何しろ著者の長編ときたら、
各章ごとにこちらを撹乱するかのようなクライマックスを用意し、
それらを終章できっちりと一纏めにしてしまうという、
よくもこんなオチを付けられるものだと感心してしまう一方で、
ストーリーの整理にものすごく頭を使う作品が多い。
その点では著者の作品の入門編として、
本作にハマれば長編にトライしてみるのはアリだと思う。

2016年9月13日火曜日

小説:小林泰三『セピア色の凄惨』

〜ストーリー〜
とある探偵事務所にひとりの女がやって来た。
わずか4枚の写真とそれにまつわる思い出だけを手掛かりに、
親友であるレイという女の行方を探して欲しいという。
依頼を受けた探偵は写真に写った人々への聞き込みを開始するが、
彼らが語るのはレイという女には関係のない奇想天外な話ばかりであった。

探偵と依頼人である女、そして、
依頼に関わる4人の人物が語るストーリーをまとめた小林泰三の短編集。
初恋の女に異常なこだわりを持つ男、
極度にめんどくさがりな女、
心配性が過ぎる女、
だんじりの先導役として死ぬことに強い憧れを持つ男など、
何かしらの極端なくせを持つ人物の、
屁理屈とグロテスクに満ちたストーリーが展開される。
良い意味での読後の不愉快さも相変わらずで、
小林泰三節を堪能することができる。
最後の逸話で一応レイの正体が明らかとなるが、
こちらは多少強引なオチの付け方でおまけ程度に捉えておけば良い。